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雅楽は、中国大陸や朝鮮半島を経て伝えられたアジア各地の古代歌舞と、日本古来の歌舞を基本に、およそ1300年前に宮中芸能として成立した。舞と音楽からなる雅楽は、現在までほとんど型を変えずに残され、世界でも珍しい伝統芸能といわれている。
しかし、雅楽のおもな活動は、皇室行事に伴う上演がほとんどなので、日本人でさえなかなか見る機会がない。それでも最近は、皇室行事以外での演奏会も開かれるようになり、気軽に楽しめるようになった。
皇室の雅楽を受け継ぐのは、宮内庁式部職楽部の楽師。試験に合格するとまず楽生として入部する。そこで7年間、実技と知識を勉強した後、正式に楽師として採用される。ただし雅楽を志す人は、すでに家族や親類に楽部と縁の深い人が多い。横笛が専門の楽師、大窪康夫さん(27歳)も、楽師である父の影響が大きかった。
「父と同じことをしたい、というのが最初の動機です。将来は父や、まだ楽生である弟と同じ舞台に立ちたい」
楽部の使命は雅楽の保存が第一だ。舞や音楽に限らず、装束、楽器、面といった道具にも、当時のアジアの文化が色濃く残る。それだけに有形無形のものすべてが貴重で、“変えずに受け継ぐ”ことが、とても重要なのだ。
「1300年も続く伝統を、そう簡単に変えることなどできません。私たちは歴史の通過点なのです」と同じく横笛専門の岩波孝昌さん(29歳)は語る。
気の遠くなるような歴史と使命をもつ楽師。しかし、若者たちに気負いはない。笙専門の増山誠一さん(22歳)は、雅楽も日常のひとつと言う。
「伝統芸能ということを、ことさら意識したことはないですね。大好きな音楽はヒップホップだし、普通の人と変わりませんよ」
大窪さんと岩波さんも、笑いながら大きく頷いていた。
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