能のシテを演じる一流派、観世流の名門・梅若家。その当主・56世梅若六郎さん(53歳)にとって、若き演者・梅若慎太朗さん(17歳)は、伝統を伝えるべき弟子であり、同時に甥の子どもでもある。
「この世界には内弟子制度がありましてね。弟子は師匠の家に住み込んで、いっしょに生活するんです。そうすることで能の世界を体で覚えていくわけです。その点、慎太朗は生まれ育ったのがこの環境ですし、小さな頃から舞台も経験していますから、下地ができています。大人になってから内弟子になると、体で覚えるといってもなかなか大変なんです」と六郎さんは語る。
「僕は3歳頃から稽古を始めたんですが、最初は嫌がっていたようです。でも5歳のときの初舞台では、人前で舞うのが楽しくなっていましたね」と慎太朗さん。彼は伝統芸能を受け継ぐ特殊な立場にいるように見えるが、ふだんはごく普通の高校生でもある。「今は学校があるので、稽古は役がついたときに集中的にしています。じつはサッカー部に入っていたんですが、稽古の時間がとれないので、最近やめました」
 慎太朗さんの言葉から、伝統芸能を継ぐ者としての覚悟が伝わってくる。
「今までは与えられた役に対して、あまり深く考えることなく演じてきました。でも、これからは自分なりの解釈を見つけていく必要があると思っています」
 では、能を伝える側として、六郎さんは弟子たちにどんな姿勢で臨んでいるのだろうか。「私は、能というものを“色”をつけずに伝える、自分が知っていることをそのまま伝えるだけです。ですから、弟子たちは他の人の生き方をたくさん見て、自分自身も豊かな人生経験を積むことが大切なんです。能は口伝と言われますが、本当は口伝ではない。役者が人間として豊かになったとき、本当の能を、つまり人間そのものを演じることができるようになる。私はそう考えています」

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