父から息子へ、そして息子からまたその息子へ。歌舞伎には、一家の中で芸を受け継ぐ伝統がある。それぞれの家には、代々得意とする役があり、一族の中で受け継ぐことによって、大きな役を演じてきた。
 中村勘太郎さん(20歳)が生まれた中村屋もそのひとつだ。中村屋の歴史は古く、現在まで続く家の中でも、もっとも古い歴史をもっている。しかし、勘太郎さんは、歌舞伎俳優になることを強制されたことはなく、物心がついた時から歌舞伎が好きで、自ら「舞台に立ちたい」と望んだという。
 「ごく当たり前に、芝居の話が交わされている家でしたし、しかも素晴らしい役者である祖父(十七代目中村勘三郎)と父(五代目中村勘九郎)が身近にいる環境で育ったことが大きいと思います。自分も早くふたりのようになりたかった」
 そして、今まで一度も歌舞伎に対する気持ちに迷いがなかったという。
 「小さい頃から日本舞踊などの習い事をしてきましたが、そのために友達と遊べなくても、稽古をするほうが楽しくて、不自由だと思ったこともないんです。仲間内でも一度も悩んだことがないなんて不思議だと言われますが、好きなことができる境遇にいるんですから、僕は幸せです」
 とはいえ、名家を継ぐ重圧と、歌舞伎という芸を未来に受け継ぐ重圧は、きっと重いに違いない。
 「家のことを考え始めると、父も祖父も曾祖父も偉大な人だったというようにキリがないんですよ。だから自分は自分と割り切ってます。歌舞伎を未来に受け継ぐには、もっと今の若い人に見てもらうことが必要だと思うのですが、若い人が観劇するにはチケットの値段が少々高い。だから、自分たちだけで公演を開けば、もう少し値段を抑えられるんじゃないかと同年代の役者仲間とも話すんです。これからは、そんな企画も実現していきたいですね。僕らの年代は個性的な人が多いので、その力が一つになれば、歌舞伎の未来はきっとおもしろいものになると信じてます」
 素直なまなざしと丁寧な言葉遣いが印象的な勘太郎さん。最近は、好きなせりふを解説した本も執筆した。それも、勘太郎さんの歌舞伎に対する愛情と理解の深さがあってこそのものだろう。

中村屋公式ホームページ(日本語版のみ)
http://www.mypixel.co.jp/Kabuki/index.html

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