|
特集
午後2時。エサを仕込んだ230本のアナゴ筒を船に積んで出航。伊東さんはたったひとり、鼻唄まじりで漁に出る。沈める場所はアナゴが最も活動的になる水温約10℃の海底。だから原則として、夏は深い所で、冬は浅瀬ということになるが、最後は伊東さんの長年の経験と勘で見当をつける。ここと決めたらロープでつながれたアナゴ筒を次々と海へ放り込んでゆく。そして目印となるブイを浮かせ、午後4時頃、いったん港に戻る。
現在、伊東さんは、70人の漁師が所属する大田漁業協同組合の組合長を任されており、戻った後も夜まで会議や電話の応対といった雑用に追われる。後継者の少ない漁師の中で、67歳の伊東さんは、いまだ若手の部類なのだ。
引き揚げのため再び海に出るのは、翌日の明け方午前5時。ロープをたぐりよせ、一本一本筒の中を確認して、アナゴを生きたまま船底のいけすに放してゆく。これで漁は終了。あとは、自宅で朝食を取り、午前10時までテレビなど観てのんびり過ごす。
捕れたアナゴは都内の流通センターか、直接、料理店に運ばれる。東京湾のアナゴは身が柔らかいと評判で、値も高い。すしや天ぷらの種として人気の魚だ。
「大漁の日もあるけど、全く捕れない日もある。相手が自然だから仕方がないこと。でもそこが漁の面白いところだね。漁師は捕れなくても諦めない“根性”がないと長続きしませんよ」(伊東さん)
捕れない時は頑張る。捕れる時も、もっと捕ろうと頑張る。しかし重労働と海風が重なるせいで、彼ら漁師は決まって腰痛に悩まされる。伊東さんも最近ヘルニアの手術を受け、回復したばかりだ。
「アナゴ漁の醍醐味は、ポイント探し。自分の勘が的中して大漁だと“どうだ!”と嬉しくなる。この感じはたまりませんよ」
漁師生活50年。年々魚が減ってゆく東京湾を見つめながら、伊東さんの「勘」勝負は続く。
|
| close |