日本人の髪の色といえば「黒」が普通だ。日本的な文化が確立した平安時代(794〜1192年)以来、日本女性は長く美しい黒髪であることが美人の条件の一つとされてきた。
 ところが、その“常識”がここ数年で大きく変わり始めている。女性や若者を中心に染髪(ヘアカラーリング)が大流行し、すっかり定着したのだ。もっとも白髪を黒く染めるための「毛染め」は昔からあったが、日本の職場や学校では、髪を染めることが長く禁止されていたため、日本人には染髪に大きな抵抗感があった。ところが今や、髪を茶色に染める“茶髪”はごく当たり前で、金髪すらも珍しくない。赤、緑、紫、ピンクといった奇抜な色も増えて、昔ほどには驚かれなくなった。
 ヘアカラーリング剤メーカーの最大手、ホーユーの調査によると、2001年における髪を染めた女性の割合は68%。1996年ごろには約30%といわれており、5年間で2倍以上に増えたことになる。男性も20%を超え、実に国民の半数近くがヘアカラーリングをしており、将来的にはさらに増えると予想されている。
 これほどまでの普及には、若者に人気の芸能人や、サッカーをはじめとするスポーツ選手がこぞって髪を染め始めた影響が大きい。実力が問われる世界で活躍する彼らが、外見でも「個性」を主張する姿に、人びとは共感を覚えるようになったのだ。
 美容師の業界団体でヘアカラーリングの研究や指導をしている内藤久美子さんは、流行の始まりは1994年だと言う。
「90年代になってカラーリングの流行の兆しが見えたので、業界をあげて普及に取り組みました。店ではお客様に積極的にすすめましたし、マスメディアを使って大いに宣伝活動もしました」
 さらにはメーカーが毛髪の傷みが少ない商品や新色を次々と発売したことで、染髪剤に不安や不満をもっていた人たちも安心して髪を染めるようになった。
 こうして日本人の意識にあった「髪を染めるのは不良」という見方や染髪への抵抗感は消えてしまった。
「90年代は、日本人の美意識や生活習慣が激変した時期。個性の時代ともいわれました。ヘアカラーリングはそんな時代の流れに合ったのです」(内藤さん)
 明るくなった髪は、洋服の着こなしの幅を広げ、日本の若者のファッションにも大きな影響を与えた。

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