世界に名を馳せた日本人の登山家で、野口健さん(28歳)ほど、若くして輝かしい実績をあげ、称賛を浴びた人はいないだろう。中学、高校時代をイギリスの全寮制学校で過ごした野口さん。学校では、お世辞にも勉強ができたとはいえなかったという。喧嘩をして停学、そんな時に読んだ、冒険家・植村直己氏の本がきっかけとなって登山を始めた。以来、16歳のときにモン・ブランに登頂し、17歳でキリマンジャロ、19歳でコジアスコ(オーストラリア)、アコンカグア(南アメリカ)、マッキンリー(北アメリカ)を制覇(10代での5大陸最高峰世界最年少登頂記録)。さらに21歳で南極のヴィンソン山、1999年に25歳で世界最高峰のエベレスト登頂に成功し、当時の7大陸最高峰の世界最年少登頂記録を樹立した。近年は登山家としての顔のほか、エベレストや富士山での清掃登山や子どもたちへの環境教育など、環境問題に積極的に取り組む活動家としても知られている。
 「富士山もエベレストもゴミで汚いんです。富士山には年間50万人が登山しますが、山小屋周辺のゴミはすごい量ですし、特にトイレの汚れがひどい。一方エベレストでは、ネパール側はいいんですが、チベット側はゴミが多い。日本隊など何カ国かの登山隊が、ゴミを捨ててしまうからなんです」
 あるヨーロッパの登山家から「日本は経済は一流だが、文化やマナーは三流」と指摘されて衝撃を受けた野口さんは、以来、独自に隊を編成してエベレストや富士山での清掃登山を始めた。
 「持ち帰ったゴミを日本や韓国で公開したところ反響が大きかったですね。結局、エベレストにゴミを置いてくる隊の国は、その国のゴミ事情も悪いんです。一方ゴミを捨てない隊の国は、その国自体がきれいで街にゴミがない。日本隊はゴミを置いてくると批判されるんですが、これはエベレストだけの問題じゃなくて、環境教育や道徳教育を含めた日本社会全体の問題なんです」
 環境関連の活動で忙しい野口さんだが「登山家としての活動は?」と水を向けると、笑いながら答えてくれた。
「ちょっと疲れちゃいましたね。いずれエベレストの北側かどこかに登るつもりですが、清掃と登頂はなかなか両立できないんですよね」

close