夕暮れ時に、繁華街を歩いていると、香ばしい匂いが漂ってくる。焼鳥を焼く匂いだ。満員の店からは、焼鳥を食べながら、酒を酌み交わす人たちの笑い声。どの町でも見られる、日本人にはおなじみの風景だ。
焼鳥は、一口大の鶏肉を竹串に刺し、醤油に砂糖やみりんを合わせたタレ、または塩をつけて焼く料理。羊の肉を使った中近東のケバブや、鶏や山羊の肉を用いるインドネシアのサテなどと似た料理である。
焼鳥に特徴的なのは、ももや胸だけでなく、内臓や尾の肉など、鶏のあらゆる部位の肉を使う点。それぞれ異なる食感の肉に、軽く焦げた香ばしいタレや塩がからまり、食べ易さも手伝って、つい何本もたいらげてしまう。専門店をはじめ、居酒屋や屋台でも焼鳥は大人気だ。最近では、家庭向けに調理された焼鳥が、スーパーマーケットでも売られている。
日本では、国家として仏教を取り入れた7世紀以来、たびたび肉食を禁じる法律が出された。そのため、鶏肉を含めた肉料理が公に登場してくるのは、肉食の禁が解かれた明治時代(19世紀後半)以降のこと。当時の焼鳥は、料理店から出た残り肉を使ったもので、露店で売られ、人気を呼んだという。
焼鳥が一般に広まったのは、1960年代に、短期間で成長する食肉用の鶏種・ブロイラーがアメリカから輸入され、鶏肉を大量に生産できるようになってから。その後、味にうるさくなった日本人の舌にこたえるため、秋田の比内鶏や宮崎の日向鶏などの地鶏を扱う焼鳥店が増えた。また、備長炭という、料理に適した高価な木炭(24頁参照)を使うなどして、味を競っている。
家庭で焼鳥を作る時は、炭が手に入らなければ、ガスや電気のコンロで焼いてもよい。この場合、油を塗った金網にのせて焼くと、肉がくっつきにくく、焼きやすい。バーベキューや焼肉用の器具、フライパンなどで焼くこともできる。
タレをつけて焼いて食べるか、塩をふって食べるかはお好みしだい。さらに七味唐辛子や黒こしょう、レモン汁をかけてもおいしい。
鶏肉は牛肉や豚肉と違い、脂肪が皮の部分に集まっているので、これを取り除けば、低脂肪のたんぱく源となる。

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