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東京から飛行機で西へ1時間30分。九州島の北東部から瀬戸内海に向かって突き出した国東半島が見えてくる。
国東は、半径15kmのほぼ円形の半島。中央にそびえる両子山から、何本もの尾根と谷が放射状に延びる。谷あいには水田と昔ながらの農家が見られ、山々には奇怪な姿の岩がそびえている。その地形のために交通の便が悪い地域だったが、かえってその不便さが、古き良き時代の日本の面影を残すことになった。
しかし国東を特徴づけているのは、古くから「仏の里」として知られてきた仏教文化だ。8世紀から山々に多くの寺院が開かれ、最盛期の12世紀頃には2000人の僧が修行を積んでいたという。しかもいたるところにさまざまな石の仏像が残され、半島全体に、そこで暮らす人びととともに仏教文化が花開いたことがわかる。旅の途中、あちこちでやさしい顔をした石仏や、険しい岩壁に彫られた磨崖仏に出会うことができるだろう。
半島南西部にある熊野磨崖仏もそのひとつ。胎蔵寺にほど近い岩山に、不動明王と大日如来が刻まれている。不動明王は高さ8m。石仏としては日本最大級だ。洗練されているとは言い難いが、素朴な表情がかえって力強さを感じさせる。どことなく大陸的な面影があるのは朝鮮半島の文化の影響ともいわれる。
このほか、九州最古の木造建造物とされる富貴寺の大堂(国宝)や、重要文化財に指定されている9体の仏像を所蔵する真木大堂など、古代からの仏教文化の名残がそこここに見られるのだ。
国東半島のある大分県は、九州地方で唯一2002年FIFA ワールドカップの開催地となる。試合会場「ビッグアイ」への玄関は国東半島東海岸の大分空港だ。空港からは大分港へのホバークラフトもあるが、ワールドカップで大分を訪れる人も、ぜひ国東半島や別府への旅を楽しんでもらいたい。
別府への途中、城下町の町歩きを楽しめるのが杵築市。高台に連なる武家屋敷や、街道沿いの商家街が江戸時代の面影を伝えている。さらに南西へ進むと「城下ガレイ」で有名な日出町がある。ここも小さな城下町で、海に面した城のすぐ下で獲れるカレイは、身の厚さ、しまりとも最高といわれる。
日出からさらに南に下れば日本有数の温泉地、別府である。「別府八湯」と呼ばれる8つの大きな温泉街に旅館や民宿、飲食店が立ち並び、泥湯、砂湯、蒸し湯など温泉の種類もさまざまだ。
別府では温泉につかるだけでなく「地獄巡り」も人気だ。「地獄」とは煮えたぎる湯や泥、間欠泉など、温泉の奇怪な姿を地獄に見たてたもの。硫酸鉄で青く染まった「海地獄」や、酸化鉄を含んだ泥で赤くなった「血ノ池地獄」、熱い泥がぼこぼこと半球形に噴き上がる「坊主地獄」など、「地獄巡り」は地球のエネルギーのすさまじさを実感できる。
ところで、別府の温泉街を歩いていると、風呂桶を抱えている人をよく目にする。観光客とは別に、地域の人々が温泉の共同浴場に通ってくるのだ。風呂好きの日本人はたいてい家に風呂を持っているが、別府では持たない家も多い。温泉があるから必要ないのだ。
入浴だけではない。暖房や園芸の温室栽培、魚の養殖まで、さまざまな分野で温泉が利用されている。
温泉に入らない日はありません。体がしんどいときも温泉に入ればすぐ元気になりますよ」と言うのは、明礬温泉で働く香川隆平さん。旅行者も一度温泉に入れば、その効能を実感できることだろう。
石仏がたたずむ「仏の里」国東半島から、湯煙が立ち上る別府の「地獄」へ。静けさ漂う国東から見れば、人びとで賑わう別府はまるで別天地だ。しかしどちらにも共通したものがある。素朴な人たちと、ゆったりとした時間の流れだ。
大分のよさ? のんびりしていておおらかなところかなあ」
旅の途中で出会った男性は頭をかきつつこう答えてくれた。
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