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「日本は私にとって、とても住みやすい国です。治安がよくて子どもは外で遊べるし、夜でも出歩ける。そして何より、サッカーファンの声援が熱いので、選手としては本当にありがたい」
笑顔で語る盧延潤さん(30歳)は、Jリーグのセレッソ大阪で活躍する名ミッドフィルダーだ。その瞬発力と、たとえ劣勢でも、最後まで選手たちを鼓舞し続ける強い精神力で、今やチームの中心的存在となっている。
生まれは大韓民国、仁川市。初めてサッカーボールに触れたのは5歳の時だという。
「その頃、遊びといえば、サッカーしかなかった。サッカーは二人でも20人でもできるでしょ。誰にでもできて、こんなに楽しいものは他にないです」
ボールを持つと、とにかく速い。その俊敏さですぐさま頭角を現し、中学・高校時代は全国大会でチームを優勝に導き、韓国ユース(16歳以下)代表選手になる。そして18歳のとき、韓国サッカー史上、最年少で代表の座を射止めた。大学は名門、高麗大学に進み、在学中にはバルセロナ・オリンピックに出場するなど、まさにエリート街道をひた走った。明日の韓国サッカー界を担う希望の星として、将来を嘱望されていたのである。
ところが、盧さんが大学卒業と同時に選んだのは、日本のプロサッカーへの道。周囲の関係者は驚き、「なぜ、アジアのライバルである日本へ行くのか?」とマスコミにも騒がれた。
「ちょうどJリーグが始まる年だったのです。リネカー、ジーコ、リトバルスキーといった世界の超一流選手が日本のチームに入ると聞き、ぜひ一緒にプレーしてみたいと思った。若かったし、冒険心もあったんでしょう(笑)」
競技場の設備、ファンの熱気。日本にはプロ選手が活躍する場として、この上ない環境が整っていたという。
「韓国のサッカーは体力勝負。力の強い方が勝つというサッカーです。一方、日本はチームワークや技術を重視する。それも私には新鮮で、楽しかった」
選手同士の意思疎通がうまくいくように、盧さんは練習後、毎日、日本語学校へ通った。日本語は「韓国語と文法が似ているので簡単」だったという。日本の料理にも韓国とたくさんの共通点があり、全く違和感がなかった。
しかし、盧さんがすんなりと日本社会にとけ込めたのは、もちろん夫人の劉永玉さんの支えがあったからだ。
ふたりの間には、5歳と4歳の子どもがいる。
「もうすぐ韓日共催のワールドカップが開かれます。韓国と日本はますます交流を深めることができるでしょう。私自身、サッカーを通じて、多くの日本の友人が持てたんですから」
取材後、盧さんはセレッソ大阪を退団し、韓国へ帰国するといったん発表されたが、8月10日、アビスパ福岡への入団が決定した。福岡でも、彼のモットー「百年の人生を千年のように生きたくない」の通り、全力でボールを追い続けるに違いない。そしてその姿は、これからも日韓をつなぐ力強い架け橋となっていくだろう。
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