町の中の城めぐり
日本の町を歩くと、意外なところに突然“城”が出現する。 本物の城と見間違えそうな本格的建物から、城のような屋根をのせただけの電話ボックスまであって、 感心したり、苦笑したり。日本人の生活のなかにある身近な城を楽しんでみよう。
文●鳥飼新市、真田邦子 写真●菅原千代志、河野利彦
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お城に和菓子を買いに行く
東京の下町浅草の東側、業平に「お城の森八」はある。住宅や店舗が密集した町中に忽然と姿を現す森八は、1933年創業の和菓子店だ。
先代の社長が、城ふうの建物を建てたいと門を作ったのが最初で、どうせならばと、1981年には“天守閣”まで造ってしまった。内部は3階建てで、店舗と住居をかねている。建設にあたっての苦労を現社長・森八一さんに聞いた。
「父はあちこちの城を見て回って自分好みの“城”を造りました。地元の建築家に設計を依頼したのですが、試行錯誤の連続。特に屋根造りがうまくいかず、名古屋城の屋根を手がけた宮大工さんの指導を受けました」
また、城をまねて窓に格子をつけると現在の消防法に違反してしまうため、防火扉を別に設けなければならない。そんな予定外の出費が重なって、建築費だけで見積もりの1億5千万円をはるかに突破した。さらに、店内に見事な天井絵まで飾るという凝りよう。夢をかなえるのも並大抵のことではないようだ。
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(1)堂々とした「森八」の店舗。通行人は思わず見上げてしまう
(2)城の焼き印が押された饅頭 
(3)美しい天井絵で飾られた店内に立つ森八一さん
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城で豪華なカニ料理を味わい、殿様気分に
1997年、愛知県豊田市の国道沿いに鉄筋4層5階建ての「豊田城」が“築城”された。実はここ、カニ料理の全国チェーン「札幌かに本家」の豊田店なのだ。地上から天守閣までの高さは23m、屋根には金の 鯱 もついている。
豊田市は現在、自動車工業都市として世界に知られているが、17世紀に江戸幕府を築いた徳川家康の先祖、松平家の城があったところでもある。それにちなんで、この地に建てる豊田店を城ふうの建築にしたという。
カニ料理は日本食の中でも高級という印象が強いが、さらに“城”という非日常的な空間で食べるとなれば、その味はまた格別のはずだ。
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看板がなければ、本物の城と間違えそうな「豊田城」
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