世界遺産「姫路城」を探る
華麗で荘厳な日本の城。しかし、本来、城は戦争のために造られた要塞だ。城の随所に、敵の侵入を防ぐための造りを見ることができる。代表的な防御の仕組みを、世界遺産に指定されている姫路城を例に見ていこう。
文●坂上恭子 写真●森竹 隆
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姫路城の天守閣と小天守。「千鳥破風(ちどりはふ)」と呼ばれる山型の屋根と、「唐破風(からはふ)」という波型の屋根の組み合わせが優美さと荘厳さをつくりだしている
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日本の城は立地条件によって、山の起伏を利用して造られた山城、平地に築かれた平城、山と周辺の平地を利用した平山城の3つに大別される。
このうち姫路城は、姫山と周辺の平地を利用した平山城にあたる。
通常、天守閣は城の一番高い場所に、さらに高く築かれている。
これは、領土を守るために周辺を見渡すためと、城主の権威を表すためだ。
天守閣がある城の中心部を本丸といい、本丸を取り巻くように、二の丸・三の丸などの区画(郭)が、螺旋状に配置されるのが一般的。
姫路城には、政務に使われた本丸のほか、城主やその一族の居館であった二の丸・三の丸・西の丸が、今も昔のままの姿で残されている。
城にとって大切な機能は、敵の攻撃からの防御である。
姫路城では城の周囲に堀を設け、石垣と城壁で固めている。
また、それぞれの郭や通路も石垣と城壁によって区画され、敵の侵入を容易に許さない。
石垣に特徴的なのは「扇の勾配」と呼ばれる急傾斜。
石垣が上部で外側に反りかえり、登りにくく工夫され、また、日本の城独特の美しさをみせている。
堀には、多くの場合、水がためられるが、地形によっては川を利用することもある。
堀の内側には、大手門をはじめとするいくつかの門がある。
ここから本丸まで進む経路は、じつに複雑。
侵入者はいくつもの郭や、数多くの門を通過しなければならない。
また、通路を進んで行くと袋小路になっているものや、大きく曲がっているため、先へ進むほど、天守閣から遠ざかるような錯覚を起こさせる通路もある。
城壁に設けられた「狭間」も、侵入した敵を撃退する工夫の一つ。
縦に細長くあけられた四角の穴は、矢を射るための矢狭間、丸や四角の穴は、鉄砲を撃つための鉄砲狭間だ。
天守閣や櫓の防御には、壁面に造られた「石落し」がある。
外に張り出した壁面の下にある、細長い隙間から石を落として、敵の侵入を防ぐという仕組みである。
日本近世の城郭は、このようにして17世紀はじめに確立したが、それは同時に、270年に及ぶ平和な時代の始まりでもあった。
その時から、日本の城は、防御や統治の機能を超えて、武士の精神と郷土の誇りを象徴する、美しい建造物になったともいえる。
姫路城は現存する城の中で、最も大きく、最も美しい城といわれている。
壁だけでなく、屋根瓦まで白漆喰で固められた城の外観から、優雅な白い鳥の名にちなんで「白鷺城」とも呼ばれ、国宝に指定されている。
そして、1993年に姫路城は世界遺産に登録された。
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天守閣内部の壁に設けられた武具掛け。敵が侵入して応戦が必要になった場合、すぐに取り出せるようになっている
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