ビルの谷間を自由に飛び回る正義のヒーロー「スパイダーマン」が手首から放つクモの糸が持つ本当の力を知っていますか。それは、鋼鉄を上回る強さと高い伸縮性、優れた耐熱性を持った高性能素材です。そんな夢の糸を人工で大量生産することに、日本のベンチャー企業が、世界で初めて成功しました。世界中の研究者が追い求めた新素材は、空想の世界を飛び出し、さまざまな工業製品に活用されようとしています。

映画の公開前イベントでクモの糸を投げるスパイダーマン=2012年6月、大阪市で ©共同通信社
鋼鉄よりも強く

人工クモの糸で作ったドレス=スパイバー社提供
映画に登場したスパイダーマンは、クモの糸で走っている列車を止めて見せましたが、現実のクモの糸も、驚くべき力を秘めています。計算すると、強さは鋼鉄の約5倍で、直径1㌢の太さの糸でクモの巣を作れば、ジャンボジェット機をまるでトンボやチョウチョのように捕まえられるほどです。また、ナイロンなみに伸び縮みし、重さは同じ強さを持つ鋼鉄と比べて6分の1、300度の熱にも耐えられるなど、まさに夢の糸です。
このほど、日本のベンチャー企業が、天然のクモの糸と同じ能力を持った人工クモの糸を大量生産する技術の開発に、世界で初めて成功しました。人工クモの糸は、日本語の「クモの巣」の発音をもとにして「QMONOS(クモノス)」と名付けられました。2013年5月に試作品として公開されたクモノスで織られた青いドレスは、光を反射して神秘的な輝きを放ち、まるで映画で見た未来の映像が目の前に現れたようでした。
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クモの糸を人工的に大量生産する研究は、数十年前から世界中で取り組まれてきました。中にはクモを大量に飼育して糸を集めようと考える研究者もいましたが、クモは縄張り意識が強い動物で、共食いする性質もあるため、大量に飼育することができません。日本では、絹糸をつくる蚕の遺伝子に手を加えてクモの糸が出るよう試みた研究も行われましたが、たくさん作ることができませんでした。