ヤギと触れ合う子ども(佐藤信次/アフロ)
日本全国でヤギやヒツジによる草刈りが行われています。除草剤を使わないので環境に優しく、草刈り機による騒音もありません。大人のヤギは1日に6~10kgを食べるといいますが、刈り取った草の処分も必要なく、排泄物は肥料になります。機械を入れるのが難しい斜面も彼らは平気で上り下りし、餌として草を食ベるので、機械のように燃料や電気も必要ありません。のどかに草を食べるヤギやヒツジの姿は地域の人々の癒しとなります。動物がいることで彼らに危険を及ぼす可能性のあるゴミの不法投棄が減るなど、たくさんの良い効果があります。
気持ちよく仕事をしてもらうために
駅前の開発予定地で草刈りをするヤギ(提供:立飛ホールディングス)
草刈りをしてもらうためには、柵や水飲み場などの準備が必要(提供:ワールド牧場)
一方で、おとなしい草食動物でも、人間が適切に面倒を見なければ、逃げ出して事故にあったり、病気になったりするかもしれません。そのためには柵や休憩所、水飲み場を設置するなど、彼らが安全に過ごすための設備や世話が大切です。1頭だと不安で鳴くことがあるため、仲間と一緒にする必要もあります。定期的な健康診断や日々の見守りも欠かせません。ヤギやヒツジに気持ちよく仕事をしてもらうための環境が整うと、彼らも活躍しやすくなります。
ヤギによる緑地管理の特許を持つアルファグリーン社が描く、理想的な環境と必要な設備の図解。柵や休憩場所、水飲み場などが設けられている
雨や日差しを避けるため、屋根のある小屋や休憩所を用意(提供:ワールド牧場)
昔は身近な動物だったヤギ
郊外の草原や山中だけでなく、住宅やビルの多い都市部でも動物による草刈りが行われていることは日本ならではの特徴です。現在日本にいるヤギは約2万頭ですが、1960年代までは約30万頭いて、ごく身近な動物でした。そのため、「子どもの頃、ヤギのミルクを飲んで育った」と懐かしく感じるお年寄りも少なくありません。子どもから見たら、ヤギは優しくてかわいい動物です。大人にとっては、のんびり草を食べる姿が癒しとなります。彼らの存在が共通の話題となって異なる世代間で会話が生まれ、地域のコミュニティーが深まることもあるそうです。これもエコロジーな草刈りが日本で盛んになった理由の一つかもしれません。
ヤギが会社員?
首から名札を下げた「総務部所属」のヤギ(提供:立飛ホールディングス)
駅近くの賑やかな場所で草刈りをするヤギ。見学者も多い(提供:立飛ホールディングス)
最近では企業や自治体、病院や大学などでも、動物による草刈りを採用するところが増えました。環境への配慮と地域社会への貢献を目的に、「ヤギ社員」が勤務する会社もあります。名札を付けたヤギが食事兼除草の仕事に励む様子は評判となり、地元住民とヤギ除草隊とのふれあいイベントも行われて大好評だったそうです。「地域の人に喜んでもらうことができ、草刈り以上の大きな価値がありました」と担当者はいいます。
草食動物によるエコロジーな草刈りは今後ますます増えそうです。近い将来、ヤギやヒツジが身近にいる風景が当たり前になるかもしれません。
草刈り期間中に生まれた赤ちゃんヤギは皆のアイドル(提供:立飛ホールディングス)
地域住民との触れ合いは、草刈りとともに大切な仕事(提供:ワールド牧場)