春、日本は入学や進学の季節を迎えます。桜が咲き始める頃、生活雑貨店の棚にずらりと並ぶのが弁当箱です。幼い子ども向けの小さなものから、食べ盛りの男性が使う特大サイズのものまで。1段、2段、3段、丸に四角と形も違えば、アニメのヒーローが描かれたもの、かわいい花柄のもの、黒一色のシンプルなものなど様々で、見ているだけで楽しくなります。
さらに、箸と箸箱のセット、弁当箱を包む布巾や袋、おかずに刺すピック、おにぎりやサンドイッチの包み紙……どれもこれも種類が豊富!
日本人の弁当に対する思い入れの深さを感じます。
今も愛される日本の伝統的な弁当箱
今ではプラスチックやステンレス製の弁当箱が主流ですが、400年以上前から使われている弁当箱もあります。スギやヒノキなどの薄い板を曲げ、桜の木の皮で継ぎ目を留めて、底をつけた「曲げわっぱ」です。木が適度に水分を吸ってくれるため、けつろすることもなく、ごはんをふっくらおいしく保ってくれます。スギやヒノキには殺菌効果がありますから、蒸し暑い夏の腐敗防止にも。プラスチックやステンレスの弁当箱に比べると値段が高く、手入れも少し面倒ですが、大事にすれば何十年も使えます。
何より、曲げわっぱに詰めた弁当は、とてもおいしそうに見えませんか?
半分にごはんを、もう半分におかずを詰める方法と、全面にごはんを敷いて上におかずをのせる方法があります。どちらの場合も、ぴっちり隙間なく詰めることが大事です。
ごはんに合う!鮭、海苔、梅干し
ごはんをおいしく食べたいのが日本人。温かくても冷めていても、その思いは変わりません。ご飯をふっくら保つ曲げわっぱが時代を越えて愛される理由はそこにあります。
だから弁当のおかずにも、ごはんに合うものが欠かせません。その代表と言えるのが、鮭や海苔、梅を赤しそと一緒に驚くほど酸っぱく塩漬けした「梅干し」です。それらをのせた弁当はあまりにも定番のため、特別に略称や相性で呼ばれています。焼いた鮭をご飯の上にのせた弁当は「シャケ弁」、海苔に醤油をつけてごはんに敷き詰めたものは「海苔弁」、ごはんの真ん中に梅干しだけをのせた弁当は「日の丸(日本の国旗)弁当」。
中でも弁当のおかずとして主役になるのが、塩鮭です。
日本のスーパーでは切っただけの「生鮭」と共に、塩漬けにした「塩鮭」が売られており、広く日常的に食されています。塩に漬けて水分を抜き、保存性を高めるだけでなく、ぎゅっと旨味を凝縮させた塩鮭は、かつて日本ではお祝いの日の贈り物でした。特別に味を加えることなく、グリルやフライパンでただ焼くだけでごはんが進むおかず。それはごはんが何よりも大好きな日本人にとって、まさにごちそうです。
塩鮭は朝ごはんや弁当のおかずにしたり、身をほぐしておにぎりに入れたり、ごはんにお茶やだしをかけて食べる「お茶漬け」の具にして楽しみます。塩鮭には、塩加減が穏やかな「甘塩」と、強めの「辛口」、その間の「中辛」があります。食べる人の好みはもちろん、朝ごはんには甘塩、おにぎりに入れるなら辛口と使い分けることもあります。
お茶漬け。夜食や、あまり食欲のない日、日本ではごはんにお茶やお湯をかけてサラサラ食べます。
詰め方でおいしさが変わる
弁当には詰め方にもこだわります。色が茶色や黄色に偏らないよう、緑や赤も入れて彩りよく。また隣のおかずに味が移らないよう、専用カップに入れたり葉物で仕切るなど工夫するか、移っても気にならない配置を考えます。弁当は持ち歩くのが前提ですから、多少動かしても崩れないよう、端からきっちり詰めていく。少しでも美しく、そしておいしく食べられるように工夫しているのです。
弁当は、ちょっぴりよくばっておかずをたくさん入れた方が崩れずに美しく仕上がります。
作る人と食べる人とのコミュニケーション
ごはんとおかずをきれいに“詰め合わせる”のが弁当の基本ですが、弁当箱をキャンバスのようにして、“描いて”作る弁当もあります。海苔や黒ゴマ、その他いろいろな食材でおにぎりやおかずを飾り付け、アニメのキャラクターやイラストに見立てる「キャラ弁」です。
子どもが喜ぶかわいいものもあれば、大人が思わず笑ってしまうユニークなもの、「ガンバレ」などメッセージが書かれたものも。そこには作る人の遊び心とアイデアが詰まっています。日本人にとって弁当は、単なる携帯食にとどまらず、作る人と食べる人とのコミュニケーションでもあるのです。
難しいことをしなくても、切った海苔で目と口をつけるだけでも、キュートなキャラクターが完成します。
弁当箱を開ける瞬間は、一日の折り返しのささやかな楽しみです。「何が入っているのかな?」、「どんな弁当かな?」。好きなおかずが入っていた日は心が弾み、午後も頑張れそうな気がするのです。
日本の中学生や高校生の多くは、自宅から持っていく弁当を昼食に食べています。
シャケ弁の作り方
◎材料(2人分)
- 塩鮭……2切れ(1~2cm厚)
※塩鮭がない場合は、鮭の両面に軽く塩を振る。
- 油……適量
- ごはん……適量
- のり(鮭と同じくらいの大きさに切る)……1~2枚
- 白ごま……適量
- 葉物野菜……適量
- ブロッコリー……適量
◎作り方
1.鮭を焼く
フライパンに薄く油を敷き、鮭を入れて焼く。
片面が軽く皮が香ばしくパリッとしたら、裏返して両面を焼く。
2.弁当に詰める
弁当箱にごはんを隙間なく詰めて、海苔をのせる。
海苔の上に1の鮭をのせる。卵焼きやポテトサラダ、茹で野菜などの好きなおかずを隙間に詰める。茹で野菜にゴマを振って完成。
料理監修/荻野恭子