みなさんは「すし」と聞くと「にぎりずし」や「巻きずし」を思い浮かべますよね。では、「いなりずし」は知っていますか?
豆腐を薄く切って揚げた油揚げを甘辛く煮て、その中に酢で味つけをしたごはんを詰めたものが、いなりずしです。日本人は親しみを込めて「おいなりさん」と呼んでいます。
「いなり」という名は、農耕の神様をまつる稲荷神社が由来です。日本人は豊作の祈りを込めて、稲荷神社に油揚げをお供えしてきました。その油揚げにごはんを詰めるようになったのがいなりずしの始まり。だからでしょうか、伝統的に収穫を祝う祭りなどで作られています。
持ち運びやすく、手でつまんで食べられる
いなりずしは咲き誇る桜をめでるお花見や遠足、運動会など行事食の定番でもあります。巻きずしとセットで作られることも少なくありません。具材とごはんを巻き込んだ巻きずし、包み込んだいなりずし、どちらも持ち運びしやすくて、手でつまんで食べられるいなりずしは、行楽やイベントにぴったりの料理なのです。もちろん普段のお弁当でも活躍しています。
花見弁当にはいなりずしと巻きずしが欠かせません。満開の桜の木の下で食べるのが日本の伝統です。
いなりずしの特徴は、油揚げを袋状にして使うところにあります。
豆腐を薄く切って揚げた油揚げは、中身のない揚げ物の衣のようになっていて、切って内側を手で開くと袋状にすることができます。そこに酢飯や具材を詰めるのです。
油揚げは、みそ汁に入れたり、甘辛く煮てうどんの具にしたり、中にもちを詰めて、冬に食べる日本の鍋、おでんの具にしたり、様々に使われています。厚く切って揚げたものは「厚揚げ」とよばれます。
味付けも見せ方もバリエーションが拡大中
白いごはんに合わせ酢を混ぜたシンプルな酢飯を詰めるのがいなりずしの基本形ですが、五目(にんじん、れんこん、ごぼうなどの根菜類、しいたけなどのきのこ類、ひじきや鶏肉など、様々な具材のこと)や山菜、紅生姜、ごまなどを混ぜた酢飯を詰めるタイプもよく見かけます。
最近では、混ぜる具材がサーモン、エビ、いくら、牛肉、チーズと華やかになって、洋風や中華風の味付けも登場してきました。レシピ投稿サイトで紹介されているいなりずしには、ピラフやチャーハン、炒めたバジルや豚肉、赤ピーマンを合わせたタイの混ぜごはん、ガパオライスを使ったものも。ごはんではなくてそうめんやそばを詰める人もいるなど、いなりずしのバリエーションはますます広がっています。
詰めたり、飾ったり、いなりずしには工作のような楽しさもあります。いろんなアレンジを考えてみよう。
きれいにできたら、みんなに見せて自慢したくなりますね。
米から多様な食品・料理を生み出してきた日本人
にぎりずしはマグロやエビなどのすし種と酢飯の比重がほぼ半々ですが、いなりずしは酢飯の比重が高くて、米が主役のおすしと言えるかもしれません。
米は日本人の食生活の中心的存在。主食であるばかりでなく、米を原料として作られる調味料や食品が毎日の食卓で大活躍してきました。
日本酒はもちろん、酢飯のお酢も米からつくられていますし、煮物や焼き物にコクや照りを加えるみりんも米が原料。米の表面を磨いた時に出る米ぬかで「ぬか床」を作り、野菜を漬けて日本版ピクルスにしたり、煎った米を緑茶に加えて香ばしい玄米茶にしたり、活用法は多岐にわたります。和風スナックのせんべいも米製ですし、最近では米粉からパンやスイーツを作ります。
米が多様な使われ方をするのは、そのクセのないやさしい味わいのせいでしょう。
いなりずしも工夫次第で楽しみ方はいろいろ。旬の食材を使えば季節のエッセンスをぎゅっと詰め込めますし、酢飯の酢をレモンにかえれば夏にぴったりの味わいに、にんじんを葉の形に切って飾れば秋の紅葉。四季折々の演出ができるのも、いなりずしの魅力です。また、植物性の食材だけで作れば、ヴィーガンもOKです。
市販されているすでに味が含まれている油揚げ、「いなり揚げ」を使うとより簡単に作れますが、中に詰める酢飯を器に盛り付けたら、酢飯と具を混ぜてカラフルに仕上げる日本のパーティ料理、「ちらしずし」としても楽しめますよ。
油揚げが手に入らない場合、具材を混ぜた酢飯を器に盛り付けて、錦糸卵(薄く焼いて細く切った卵焼き)やエビ、緑色の野菜などをいろどりよく飾れば、ちらしずしに。
アスパラガス、ズッキーニ、バター醤油のいなりずしの作り方
◎材料(12個分)
<いなり揚げ……12枚(7.5×15cmの油揚げ)>
- 油揚げ……6枚
- ┌水……800ml
│酒……60ml
A│醤油……26g
└砂糖……40g
<酢飯>
- ごはん(炊き立て)……400g
- ┌米酢……60ml
B│砂糖……24g
└塩……9g
<具>
- アスパラガス……6本
- ズッキーニ……1/2本
- バター……大さじ1
- 醤油……小さじ2
- 黒こしょう……少量
下準備(具を炒める)
1.アスパラガスは真ん中で2等分し、穂先は飾りに、根元は酢飯に使う。
2.アスパラガスの穂先はさらに4等分し、根元は5mm幅の小口切りに、ズッキーニは5mm角のダイス状に切る。
3.2をフライパンでバターソテーにして、醤油と黒こしょうで調味する。
◎作り方
1.いなり揚げを作る
油揚げを半分に切る。
沸騰する湯の中に油揚げを加え、さっとくぐらせたらザルに上げる。
注:油揚げの余計な油を抜くことで油揚げの油っぽさをなくし、味をしみ込みやすくする。
湯を捨てて、油揚げを鍋に戻し、Aを加える。
アルミホイルやクッキングペーパーで覆って、強火で12~13分煮る。
バットに油揚げを広げて並べる。煮汁をかけてラップフィルムやキッチンペーパーを密着させ、1晩おく。
2.酢飯を作る
Bを混ぜ合わせて、炊き立てのごはんに回しかける。まんべんなく混ぜ合わせたら、しっかり冷ます。
3.いなり揚げに酢飯を詰める
バターでソテーしたアスパラガスとズッキーニを酢飯に混ぜ、直径3cmほどに丸める。
軽く水気を絞ったいなり揚げを、切り口から開いて袋状にする。
酢飯を詰める。隅まで酢飯を行き渡らせて、楕円形に整える。アスパラガスの穂先を上に飾る。
4.他のバリエーションも作ってみよう
◎アスパラガス、ズッキーニ、バター醤油(下段左端)
◎鮭、たくあん、白ごま(上段左端)
塩鮭の切り身1枚を焼いて身をほぐしたもの50g(シャケ弁のページ参照)、刻んだたくあん25g、白ごま3gと共に酢飯200gに混ぜ合わせて、揚げに詰める。
◎フライドオニオン、アーモンド(下段左から2つめ)
市販のフライドオニオン6~7g、砕いたアーモンド12~13gを酢飯200gに混ぜ合わせ、揚げに詰める。
◎牛そぼろ、黒米(中段左端)
牛ミンチ90g、醤油4.5ml、日本酒17mlを水分がなくなるまで炒めて冷ます。黒米酢飯200g(米1合、黒米大さじ1、水150mlで炊く)に混ぜ合わせて、揚げに詰める。
*分量はすべて6個分
料理監修/「てのしま」林 亮平