カラー化システムを開発した早稲田大学の創立者、大隈重信の屋敷の庭で写真に写る学者たち。1930年ごろの白黒の写真を、人工知能を使った技術でカラー化したもの(©早稲田大学)
100年前の白黒写真を見たことがありますか? 今から約60~70年前までは、カラー技術が発達していなかったため、映画やテレビ、写真は白黒が普通でした。カラー写真を白黒にするのは難しいことではありませんが、これまで白黒写真に色付けするには手作業しかありませんでした。
そんな昔の白黒写真を自動でカラー化できるコンピューター技術を日本の大学の研究室が開発しました。
人工知能の技術で画像の特徴を読み取る
カラー化する前の元の写真(©早稲田大学)
この自動カラー化技術には、ディープラーニングと呼ばれる人工知能の技術が応用されています。ディープラーニングとは、人間が学習するように、コンピューターに大量のデータを読み込ませて、人間と同じように画像を見分けたり、判断したりできるようになるという技術です。一つの画像について、白黒とカラーの両方を大量に読み込むことでコンピューターは色を付けるための手がかりとなる特徴を学習していき、この特徴を利用して白黒画像をカラー画像に自動変換します。
この研究ではコンピューターに学習させるために約230万枚もの画像を使ったそうです。より正確な色付けのために、この技術には新たに開発された手法も用いられています。画像全体から読み取られる情報と、画像の小さな部分から分かる特徴を結び付けて利用するというものです。例えば、画像全体からは、屋外か室内か、昼か夜かなどの情報を知り、各部分からは、それが植物なのか、砂や水なのかといった特徴を見分けます。この画像全体と部分から分かるそれぞれの情報・特徴を組み合わせることで、自然な色付けができるようになったのです。
1890年頃 長崎の出島(外国人居留地)をカラー化(Mary Evans Picture Library/AFLO)
1920年頃 東京近郊の茶摘みをカラー化(Picture Alliance/AFLO)
誰でも利用できる技術
そうはいっても、写真の内容によって彩色のしやすさは異なります。車や建物、服の色など、白黒写真を見ただけでは色が分からないものは難しく、水や樹木、葉など、だいたい色が決まっているものはきれいに色が付きます。写真が撮影された日の天気や時間帯、建物や服の色などの情報を加えることで、より現実に近い、正確な色付けが可能になります。そのため、自動カラー化技術を使った上で、さらに手作業を加えて過去の写真や資料をよみがえらせる試みも行われています。
この研究によって開発されたプログラムのソースコード(コンピューター言語で書かれたプログラムの設計図)は一般に公開されています。誰でも利用できるように研究者が作ったサイトもあり、みなさんも試してみることができます。白黒写真に色が付くことで、これまでカラーでは見ることができなかった昔の風景や人々が生き生きと表現され、より身近に感じられます。この技術を開発した教授は、「みなさんが自由にこの技術を使うことで、新しいアイデアや使い方が生まれたらうれしい」と語っています。
1970年 ニューヨーク、ジャクリーン・ケネディ、ランドルフ・チャーチル、ジョン・F・ケネディ・ジュニア、アナベラ・チャーチル、アンドリュー・カーをカラー化 (Everett Collection/AFLO)
1973年 オードリー・ヘプバーンをカラー化(Photofest/AFLO)