大きな魚もゆったり暮らせる巨大水槽=沖縄美ら海水族館、2017年7月現在
美しい魚や不思議な生き物がたくさんいる水の中の世界を魔法のように目の前で見せてくれるのが「水族館」です。日本には60館以上あります。海に潜らなくても、水族館に行けば、クラゲやペンギン、イルカ、アザラシ、ジュゴンなどの人気者に会えます。
珍しい生き物が見られる水族館には最新の技術が生かされています。例えば、テーブル型の水槽は、ガラスの食器を置くと魚が食器の下を泳ぐ不思議な場面を見ることができます。「アクリル樹脂」という透明プラスチックで水槽を作っていて、粘土のようにいろんな形に変えることができます。ジンベエザメやマンタなど大型生物がのびのびと泳げる深さ8㍍を超える大きな水槽もあります。あまりに大きいので、まるで映画館の大画面を観ている気分になります。
テーブル型の水槽=アクアパーク品川
クラゲが“光の服”でファッションショー
水槽にたくさん付いている照明は「LED(発光ダイオード)電球」と呼ばれます。赤・黄色・緑・青などの基本的な色を組み合わせることにより、あらゆる色の光が出せるので、クラゲにきれいな“光の服”を着せることができます。照明の色が変わるたびに、クラゲの“服”が変わります。
LED照明で美しく輝くクラゲ=アクアパーク品川
最近はクラゲをさらに美しく見せるために「3Dプロジェクションマッピング」という映像技術を使う水族館もあります。新江ノ島水族館(神奈川県)のクラゲショーが有名です。クラゲの水槽が集まる同館のホールでは13台のプロジェクターが天井などにぶら下がっています。日本の会社が作った機械です。この機械が、ホールの壁や天井、柱に、本物そっくりのクラゲなど海の生き物の立体的な絵を写します。
本物のクラゲが泳いでいる水槽の隣の壁には、大海の中で揺れる大きなクラゲが現れます。本物の生きているクラゲのそばに海中を漂うクラゲの映像が写っていて、まるで“潜水艦”から深い海の世界をのぞいているようです。
3Dプロジェクションマッピングで水槽横の壁に映し出されたクラゲ=新江ノ島水族館
虹のカーテンの中を泳ぐイルカ
アクアパーク品川(東京)のイルカショーでは、大量の水が美しい模様を描きながらイルカの周りに降り注ぐ「水のカーテン」といわれる技術を使ってショーを盛り上げます。
ショーが行われるスタジアムの天井には、イルカ数頭がすっぽり収まる丸い“水のカーテンレール”があります。このレールの溝から水が落ちて、模様ができる仕組みです。水の落ちる量、タイミング、位置をすべてコンピューターが計算して、自動的に操作します。
水のカーテンに光を当てると「虹」が現れます。水のカーテンに合わせてジャンプするイルカはまるで虹の中を泳いでいるようです。
水のカーテンと光に合わせてジャンプするイルカ=アクアパーク品川
タッチパネルで魚の名前が分かる
さらにアクアパーク品川では、スマートフォンでおなじみの「タッチパネル技術」も使っています。水槽を指で触ると、中にいる魚の名前や生息地などの情報が表示されます。透明な水槽が表示画面となります。魚を眺めながら、魚の名前が分かります。日本語と英語の2カ国語表記なので、日本語の苦手な人も楽しめます。
水槽のそばに書かれている生き物の説明は、読まれることが少ないですが、タッチパネルなら楽しみながら読むことができそうです。
触ると魚の情報が表示される水槽=アクアパーク品川
“壁の水槽”で泳ぎ回る「絵の魚」
生き物が全くいない不思議な「水族館」も誕生しました。子どもたちがクレヨンで描いた“魚の絵”が、水槽に見立てた大きな壁に写し出されて動きだす「お絵かき水族館」(神奈川県など)です。
子どもたちが描いた絵は、水族館のスタッフがスキャナーという機械でコンピューターに送ります。コンピューターは“絵の魚”を「壁の水槽」の中で動くように、“命”を吹き込み、機械に命じて、「壁の水槽」に放してやります。
絵の魚は、壁に近づく人間の動きに合わせて動きます。子どもたちが自分で描いた魚を手で触ろうとすると、本当に生きているように逃げ出します。人の動きをつかんで絵の魚が逃げるようコンピューターに伝える役割の「センサー」がたくさんあるからです。
魚の絵が動き回る「お絵かき水族館」=ららぽーと湘南平塚のチームラボアイランド
子どもたちの絵をスキャナーでコンピューターに送るスタッフ=ららぽーと湘南平塚のチームラボアイランド
水族館には、水に住む生き物たちのことを知り尽くし,心から愛する「飼育員」と呼ばれる人が大勢います。生き物の素晴らしさを訪れる人に知ってもらいたいと、水族館で使うことができる新しい技術がないか、魚が餌を探すように、毎日、一生懸命見つける努力をしています。なぜでしょう?
それは、これまで魚に興味のなかった人も、面白い形の水槽や美しい照明、虹を作る水のカーテン、絵なのに動く魚が好きになり、海や川の世界を好きになってくれるかもしれない、と期待しているからです。新しい技術は、海や川の世界に多くの人を引き寄せる“魔法の杖”なのです。