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高さ634mの東京スカイツリー。©TOKYO-SKYTREE
長いあいだ東京のシンボルとして親しまれていた東京タワーに代わって、新しいシンボルとなったのが「東京スカイツリー」です。東京タワーの高さは333mでしたが、東京スカイツリーはなんと634mもあります。建築にはさまざまな最新技術が用いられましたが、日本で多発する地震対策をどうするかが最大の課題でした。なぜなら、日本の地震の発生件数は、世界中で起こる地震の10%を占めているからです。
最新の東京スカイツリーと最古の五重塔
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日本の中西部・奈良県にある薬師寺東塔。法隆寺の五重の塔と同様に、塔の中心部に心柱が使われています。
(写真提供:奈良市観光協会 ©矢野建彦)
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東京スカイツリーと法隆寺五重塔で共通する心柱。
©NIKKEN SEKKEI LTD
建物の地震対策は、主に「耐震(たいしん)」「免震(めんしん)」「制振(せいしん)」の3種類に分けられます。
「耐震」は建物を強くして、壊れないようにすることです。「免震」は地面の揺れをできるだけ建物に伝えないようにする技術です。最後の「制振」は地震の揺れを吸収する装置で、揺れを小さくすることです。
東京スカイツリーでは、最新の制振技術が採用されています。その名も「心柱制振」です。聞き慣れない言葉かもしれませんが、「心柱(しんばしら)」とは日本の古い建造物である、三重塔や五重塔などの多重塔で使われている柱のことを指しています。
日本には美しい五重塔(ごじゅうのとう)を持っている寺がたくさんあります。なかでも有名なのは、奈良にある法隆寺の五重塔です。これが建てられたのは1300年以上前であり、木造の建築物としては、世界で最も古い建物の一つです。何百年ものあいだに何度も地震にあっているのに、一度も倒れたことがありません。この五重塔の秘密は完全には解明されていませんが、内部の「心柱」という柱が地面から上部まで貫かれているため、建物の強度をあげていることが分かっています。そして東京スカイツリーでもこの「心柱」に似た構造を取り入れることになったのです。
最新の制振技術が、1300年前に使われていた?
東京スカイツリーは、最新の制振技術を実現した結果、五重塔とそっくりの構造になりました。それは「質量付加機構(しつりょうふかきこう)」という仕組みです。地震の揺れで建物が揺れるとき、建物のなかに「タイミングがずれて揺れるもの」があると、全体の揺れが打ち消しあい、小さくなるというものです。五重塔の心柱は、他の骨組みと直接つながっていません。だから、「これは構造の一部というよりは、制振技術ではないか」と考えられたのです。
東京スカイツリーでも中心部に長い柱を入れており、タワー全体とは直接繋がっていない独立したものになっています。そのため大きな地震がきても、真ん中の柱と、タワーそのものの揺れにズレが生まれ、うち消しあうことができるのです。
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質量付加機構(しつりょうふかきこう)の仕組み。建物全体が左へ揺れると、おもりは右へ揺れます。©NIKKEN SEKKEI LTD
地震が多い国だからこそ、木造建築が発達した
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中心部が少し脹らんでいる「むくり」、中心部が少しへこんでいる「そり」がデザインに採用されています。そのため、傾いているような不思議な見え方がします。
©NIKKEN SEKKEI LTD ©TOKYO-SKYTREE
日本は昔から木造建築が盛んで、世界最古の木造建築(*)が日本にあります。堅い石造りの建物ではないからこそ、地震が多い日本でも、長いあいだ倒れなかったのかもしれません。東京スカイツリーでは、心柱以外にも「そり」「むくり」という古い建築技術が応用されています。古い木造建築の柱で、中心部が少し脹らんでいる「むくり」、日本刀にも見られる「そり」を東京スカイツリーでも利用しているのです。コンピューターはおろか、計算機もなかった1300年以上昔の建築技術が、4年前に完成した634メートルという日本最大の建造物に応用されているとは、日本の先人たちの技術の高さに驚かされます。
(*)
奈良県にある法隆寺の西院伽藍は世界最古の木造建築物群として世界遺産に登録されています。建築年は7世紀後半だと考えられています。