うちで切れないものはお客様とのご縁
うぶけや 七代当主 矢崎秀雄さん
 1783年創業のうぶけやは、刃物を製造販売する老舗である。
 屋号の「うぶけ」とは、うなじなどに生えている薄い毛「産毛」のこと。初代・喜之介の作った毛抜きは産毛も途中で切れずに抜け、剃刀は産毛もきれいに剃れ、鋏は産毛さえも切れることからその名がついた。
 “刃物は一生もの”だという気持ちで、代々の当主たちは鍛冶や研ぎの職人たちに仕事の妥協をさせなかった。そうして作られた製品のよさが信用となって今に続いている。
 その一方で、19世紀半ばの明治維新後には、時代の要望にあわせて、いち早く洋裁の裁ち鋏や洋包丁を作ったりもしてきた。
 「よく先代が『うぶけやで切れないものは、毛抜きの産毛とお客様とのご縁』なんて言ってました。この言葉どおり、昔からうちの刃物を使ってくださって古い包丁なども研ぎにお持ちくださるお客様もいらっしゃるんです」と、現当主の矢崎秀雄さん。
 ただ、第2次世界大戦後の高度経済成長期以降、腕のいい職人たちが引退してしまい、跡を継ぐものが少なくなってきた。そんな中、20年前に刃物研ぎの修行に出ていた息子の豊力さんが、2002年、うぶけやに刃物研ぎの工房を開いた。さらには、サビの出にくい新しい鋼材を使った包丁の製作も始めた。うぶけや新時代の始まりだ。

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